3次元丘陵まわり流れのCFD解析

 

九州大学 大学院工学府 航空宇宙工学専攻

流体力学研究室

 

研究背景

乱流現象は、3次元非線形で、運動スケールの広がりが大きく、力学的な取り扱いが困難であり、未だ未解明な部分も多い。従来の実験的な研究に加えて、近年の計算機技術の発達により数値流体力学的な手法に依存することも多くなってきている[1]。しかし流体を支配する連続式と運動方程式を十分な精度で直接数値的に解くには莫大な計算コストを要し、これが乱流シミュレーションの研究を進める上で常に大きな制約となっている。一方、工学設計が必要としている流れに関する情報は主に統計平均的な特性や特定の周波数応答であることも多く、レイノルズ平均型乱流モデル(RANS)やラージエディシミュレーション(LES)、およびLES/RANSハイブリッドモデルのような何がしかの平均操作を施した支配方程式を解くことにより計算コストを大幅に下げることが可能であるが,高レイノルズ数の複雑な流れに対しては未だ改善すべき点も多く残されている。

本研究では、より高精度かつ汎用性の高い解析手法開発に向け、RANS、LES、LES/RANSハイブリッドモデルを用いて3次元丘陵周り流れの数値解析を行い、得られた結果とRoger L.Simpson[2]による実験結果を比較することにより各手法の問題点及び改善策を検討することを目的としている。この3次元丘陵周り流れは、hill下流側の広範囲において複数の剥離・再付着、強い巻き込み、および3次元的な渦構造など工学的に重要な現象を多く伴い、各手法の予測精度を検討する上で相応しい流れ場であると言える。

 

研究の現状と問題点

Loger L.Simpsonによる実験はチャネル内の一様流中に高さH、底面半径2Hのhillが設置され、計算条件もこれと一致させた。この流れ場の概略を図1に、計算結果の例としてhybridモデルによるhill上の底面速度ベクトルを図2に示す。なお,流入条件については,文献[3]を参考にした.

1  3D-hill

 

 

 

2  底面速度ベクトル

 

 

 代表的な断面の主流方向速度、スパン方向速度、乱流エネルギーをそれぞれ図3〜5に示す。また,中心断面における圧力係数を図6に、代表的な断面の壁面摩擦速度を図7に示す。図7における壁面摩擦速度のLESにおける全体的な過小評価については、粗い格子でのLES計算の一般的な傾向が現れていると考えられる。一方、RANSとhybridでは全体的に過大評価となっているが、さらにRANSについては中央付近の様子が実験と異なっており、改善すべき点が多く見受けられる。

 本研究では,RANSについては、Abe,Kondoh,Naganoによる線形k-εモデル(AKN)[4]Abe,Jang,Leschzinerによる非線形k-εモデル(AJL-ε)[5]、非線形k-ωモデル(AJL-ω)[5]3種の乱流モデルにより計算を行った。各モデル間で計算結果に大きな違いは現れなかったため、実験との相異が現れた本質的な原因はモデルの線形・非線形の違い、およびε方程式・ω方程式の違いではないと考えられる。今回については、RANSでは全体的な流れ場を良く再現できず、LESでは全体的な流れ場の予測精度は高かったものの、壁近傍の格子点の不足により壁面近傍の予測精度が低いという結果になった。hybridモデルによる予測では全体的な流れ場の予測精度に関してはRANSLESの中間的な位置にあった。これらより,工学的に有用な低コストかつ高精度な乱流解析手法としては、hybridモデルのさらなる改良が有力な候補として考えられる。

 

3 主流方向速度

 

4 スパン方向速度

 

5 乱流エネルギー

 

6 圧力係数

 

7 壁面摩擦速度

 

 

本研究の今後の展望

LESDNSを適切に用いることができれば、乱流場を高い精度で予測・解析することが可能である。しかし、将来的にコンピュータ性能が飛躍的に伸びたとしても、低コストで適用範囲の広い乱流モデル技術があれば工学的な観点から有用であることには変わりはない。本研究で検討しているhybridモデルはチャネルやhill flowのような流れ場に対しては良い予測精度を有していることが確認されており[6]、このモデルにさらに改善を施すことでより汎用性のあるhybridモデルへと発展していくことが期待される。

 

More detailed descriptions are given in the reference paper[7].

 

参考文献

[1] 大宮久明 三宅裕 吉沢徴:乱流の数値流体力学 モデルと計算法,東京大学出版会(2002).

[2] Roger L. Simpson, C. H. Long, G. Byun : Study of vortical separation from an axisymmetric hill, International Journal of Heat and Fluid 23(2002)582-591.

[3] L. Davidson and S. Dahlstrom : Hybrid LES-RANS:Computation of the Flow Around a Three-Dimensional Hill, ETMM6,Sardina,Italy,May 23-25,2005.

[4] K. Abe, T. Kondoh, and Y. Nagano : A new turbulence model for predicting fluid flow and heat transfer in separating and reattaching flows-I. flow field calculations, I. J. of Heat and Mass Transfer, 37, 139-151(1994).

[5] K. Abe, Y. J. Jang and M. A. Leschziner : An investigation of wall-anisotropy expressions and length-scale equations for non-linear eddy-viscosity models, I. J. of Heat and Fluid Flow,24, 181-198(2003).

[6] K. ABE and Y. MIYATA : An Investigation of Hybrid LES/RANS Models for Predicting Flow Fields with Separation, Progress in Computational Fluid Dynamics, Vol. 6, pp. 475-486, 2006.

[7] Tadashi OHTSUKA and Ken-ichi ABE : Numerical Studies of a Three-Dimensional Hill Flow, Proceedings of 18th International Symposium on Transport Phenomena, Daejeon, pp. 1367-1373, 2007.

 

 

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