アブレータから放出されるスポレーション粒子の研究

 

九州大学 大学院工学府 航空宇宙工学専攻

流体力学研究室

 

研究背景

小惑星探査機「はやぶさ」等のようなサンプルリターン計画においては、しばしば探査機や探査プローブの超軌道から惑星大気への突入が行なわれ、非常に激しい空力加熱に晒される。地球周回軌道からの地球大気への突入であれば熱防御材としては耐熱タイル等輻射冷却が有効であるが、超軌道からの突入では輻射による放熱のみでは十分に冷却することが困難である。そのため、熱防御策としてはアブレーション(ablation)が有効であるとされており、過去にも多くの宇宙機に搭載されてきた。しかし、アブレータの重量減少が予測値の2倍であったり、よどみ点よりも下流域のほうが高温となるなどといった打ち上げ前の研究では予測されなかった現象が報告されており、その原因として挙げられているのがスポレーションである(図1)。本研究室では,このスポレーション現象の発生原因解明のため、放出された粒子の可視化による粒子径計測、放出速度等を明らかにすることを目的としている。

 

図1:スポレーション概念図

 

研究の現状と問題点

(1) ベークライト製プローブの加熱試験

 再突入環境の地上模擬装置であるアーク加熱風洞(九州大学所有)を用いてのCFRP製アブレータ(2)の加熱試験が最終的に行なう実験であるが、その予備試験としてアブレータと同様にスポレーションを起こしうる試験体としてベークライト製プローブを用いた加熱試験を行なった(3)。その結果、母材に布を用いたもの(2中央)において粒子は確認できなかったが、ガラス繊維を用いたもの(2)では、プローブ表面から流れ場に放出された粒子が確認されている(図4)。写真はプローブ前面に拡大平行化したレーザー光を照射することで、インラインホログラフィ法を用いて粒子を可視化したものをハイスピードカメラで撮影を行なったものである。

 

図2:各種プローブ(φ30mm)

 

図3:アーク加熱風洞における加熱試験

 

図4:粒子の可視化 (インラインホログラフィ法)

 

(2) 放出されたスポレーション粒子の飛行経路の数値解析

 放出されたスポレーション粒子が下流域で気化したことによる乱流成分の増加、また高温の粒子自身からの熱放射によって増加したアブレーションへの入熱の増加によるアブレータの質量損失は数%にも及ぶとされており、下流域への影響について検討するためにアーク風洞内の自由流中に放射されたスポレーション粒子の飛行経路の数値解析を行なっている(図5)

 

図5:粒子飛行経路解析

 

本研究の今後の展望

過去に行なわれたスポレーション粒子に関する研究において、可視化を行なったという例は無く、分光測定による「炭素の存在しない流れ場中に炭化ガスの存在が確認されたためにその領域に粒子が存在する」という解釈や、またレーザー光の減衰強度測定によって「強度が減衰しているためレーザー光の走査領域には粒子が存在する」といった扱いであり、個々の粒子の情報は少ない。近年の画像撮影技術、特に高速撮影に対する技術の向上から、放出された粒子を個々に可視化することが可能となってきたことから、本研究室では粒子単体の情報を取得し、統計データから粒子場の情報を得るという手法を検討している。

 

 

All Rights Reserved, Copyright(C) 2008, Fluid Mechanics Laboratory,

Department of Aeronautics and Astronautics, Kyushu University.