深宇宙探査機の力学と制御


多体力学系を利用した惑星間軌道設計

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Interplanetary Trajectory using Multi-Body Dynamics

宇宙機の軌道設計において、2つ以上の天体の重力の影響を考慮したモデルを多体問題と呼びます。 多体問題は低エネルギーな軌道の設計に幅広い解を与えることができるため、小型ロケットや大きなペイロードを使用したミッションの軌道設計には必要不可欠となっています。 しかし、多体問題の軌道には解析解が存在しないため、数値計算による設計が主流となり、計算コストが非常に高くなるという問題もあります。 本研究室では、多体問題、特に円制限三体問題において不変多様体などの幾何学的な特徴を利用した新たな軌道設計手法を提案し、ミッション軌道の計算コストの低減化を目指しています。


低推力推進を用いた軌道最適化

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Low-Thrust Trajectory Optimization

近年の宇宙探査では、イオンエンジンを代表とする低推力推進を搭載した宇宙機が多く利用されています。 低推力推進を用いた軌道設計は解の自由度が高く、宇宙機の消費燃料や遷移時間の最適化を行うことが非常に困難とされています。 従来は、非線形計画法や最適制御理論によって最適解が計算されてきました。 しかし、本研究室ではその枠組みに限定せず、スパース最適制御やリーマン多様体などを用いた新たな軌道最適化手法を提案することで、 低い計算コストでロバストに最適解を導出することを目指しています。


小惑星探査ミッションのための軌道解析

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Asteroid Missions

小惑星探査ミッションには、太陽系の誕生や進化の過程を解き明かすという科学的意義があります。 しかし、小惑星は歪な形状をしているので重力場が複雑であり、惑星探査と比べて太陽輻射圧や太陽の重力による摂動の影響が大きいため、軌道計算が難しくなっています。 本研究室では、小惑星まわりでの軌道計算に新たな計算手法を適用してその計算手法の有用性を調べる研究や、 小惑星にどのような経路を用いたら少ない燃料でうまく着陸できるかという研究を行っています。


フォーメーションフライトの軌道制御

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Formation Flying Mission

複数の衛星によるフォーメーションフライトは、その応用性の高さから近年重要な研究分野となっています。 フォーメーションフライトの利点として、単一の衛星の機能を複数の小さな衛星に分配することで、衛星の設計の複雑さを排除できることなどが挙げられます。 フォーメーションフライトを実現するためには、さまざまな摂動が存在する環境において姿勢の制約のもとでフォーメーションの維持を行う必要があります。 本研究室では、地球周回軌道上での飛行において、摂動の一つである大気抵抗を制御力として利用し、姿勢の制約を考慮した軌道制御則の構築を目指しています。


非線形力学系へのデータサイエンス的アプローチ

FTLE

Finite Time Lyapunov Exponents Field

太陽系の天体や宇宙機の運動は多体力学系としてモデル化されますが、解析解が存在しないため、運動方程式の数値積分が解析の主な手段です。 そこで、近年流体分野で開発されたデータ駆動型の解析手法である動的モード分解(Dynamic Mode Decomposition, DMD)やクープマン作用素理論を用いて、 時系列データから多体力学系を解析することを目的としています。 研究室では、これまで以下の 2 つの時系列データを解析対象とした研究を行いました。

  • 地球-月系円制限三体問題のラグランジュ点周りの線形領域と非線形領域における測定データ
  • 力学系におかれた 2 粒子の離れる度合いを表す有限時間リアプノフ指数(finite-time Lyapunov exponent, FTLE)で表現された場のデータ 今後は並列計算のなども活用し、データを直接利用したミッションデザインへ展開したいと考えています。

地球―月往還型輸送システムの提案

EarthMoon_cycler

Earth-Moon Cycler Orbit

近年の宇宙開発では、有人での月面探査が大きな注目を集めています。 有人宇宙活動を行うためには多くの物資が必要となるため、月への効率的な輸送技術が必要となります。 本研究室では、地球ー月間を安定して繰り返し往復するためのサイクラー軌道を用いた輸送の構築を目指しています。 特に、将来の月近傍有人拠点となるゲートウェイへの輸送のために多体問題と最適制御を組み合わせたサイクラー軌道の設計に取り組んでいます。